「ミトコンドリア」をざっくり解説 平和共存

「ミトコンドリア」をざっくり解説 平和共存
凡例
本稿は農水省の獣医師国家試験出題要項(H26)に従ったもので,以下の範囲に該当します

Ⅰ 構造と機能 1.生体の基本構造と機能 A.細胞の構造と機能 c.細胞小器官

関連分野:組織学,生化学,薬理学

一部の頻出する文献については以下の略称を用います.

[CELL 2017]:ALBERTSJOHNSON,LEWIS,MORGAN,RAFF,ROBERTS,WALTER. 細胞の分子生物学. 第6版. 翻訳者: 中村桂子,松原謙一. ニュートンプレス, 2017.

[獣生化 2016]:横田博,木村和弘,志水泰武. 改訂 獣医生化学. 初版. 朝倉書店, 2016.

[コア解組発 2012]:日本獣医解剖学会. 獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 獣医解剖・組織・発生学. 初版. 学窓社, 2012.

[獣組織 2017]:—. 獣医組織学. 第7版. 学窓社, 2017.

ミトコンドリアとは

ミトコンドリアとは球状又は糸状をした主にATP産生を担う細胞小器官である( [コア解組発 2012] pp.277-278).

ミトコンドリアの構造と機能

ミトコンドリアは外膜内膜の二重膜で包まれた構造をとっています.この両膜の間の腔所は膜間腔,内膜に包まれた部分をマトリックスといいます( [獣組織 2017] p.5).この4つがミトコンドリアの基本構造です.

 ミトコンドリアは多くの人が思ってるような細胞内に配置されて黙々とATP産生を行っている細胞小器官ではありません. 

ミトコンドリアは活発に 分裂と融合 を繰り返し,他の膜性細胞小器官とも相互作用します.特に 小胞体との結合 は多く見られ,これがミトコンドリアの増殖の引き金となっているとされています( [CELL 2017] pp.755-757).

このミトコンドリアの激しい動的性質は,ATP需要が高まれば増殖しなくてはならないが,増えすぎると今度はDNA傷害性をもつ活性酸素種の産生増加というデメリットが無視できなくなるということから生ずると思われます.

また,ミトコンドリアの機能は,①ATP合成,②アポトーシス統制,③Ca2+貯蔵が代表的です( [コア解組発 2012] p.278).以降,それぞれの部位で何が行われているのかを説明します.

ミトコンドリアの構造

外膜にはミトコンドリアポーリン,アシルCoAシンターゼ,MAOが存在する

外膜にはミトコンドリアポーリンと呼ばれる膜貫通蛋白質があります.これは分子量≦5,000で電荷を持たない物質を自由に通します( [Ross組織学 2010] p.55).後述しますが,ミトコンドリアの最大の目的であるATP合成は内膜に於いて行われます.ですから,外膜は ①ATP合成の材料を取り込む機構と,②合成したATPをミトコンドリア外へと運ぶ機構 を必要とします.

これら,ATP関係の物質はどれも小さい(=低分子量;ATPの分子量は約500)ため,ミトコンドリアポーリンを十分に通ることができます.また,ポーリンを介した輸送は受動輸送です.ですから能動輸送した場合に発生する「ATPを運ぶのにATPが必要」という事態を避けることができます.

また,ミトコンドリア外膜にはアシルCoAシンターゼ1と呼ばれる酵素が存在します.これは脂肪酸をアシルCoAに変換することでミトコンドリアへの輸送を助けます.取り込まれたアシルCoAはマトリックスにてβ酸化と呼ばれる反応経路によりアセチルCoAへと変換され,クエン酸回路に使われます( [獣生化 2016] pp.105-107).

更に,外膜にはモノアミン酸化酵素(MAO)が存在し,アドレナリンに代表されるモノアミン代謝に関わります( [NEW薬理学 2011] p.111).これは薬理学的に極めて重要で,MAOを阻害することによって効果を発揮する薬がパーキンソン病治療薬として用いられています2( [NEW薬理学 2011] p.316).

しかし,何故,MAOがミトコンドリア外膜に存在する必要があるのでしょうか? ミトコンドリア外膜とMAOの関連には必然性はあるのでしょうか? 残念ながら明言している文献を探すことはできませんでした.以降は完全に独自研究なので斜め読みぐらいで大丈夫です(異論は歓迎します).

筆者としてはMAOがFAD依存性酵素(=フラビン酵素)であること( [NEW薬理学 2011] p.110)が重要であると考えました.FADはリボフラビンから誘導される補酵素の1つです.生体内では特にクエン酸回路とβ酸化に関わっています( [獣生化 2016] pp.90-97).これらはどちらもミトコンドリアで行われる反応です.よって,ミトコンドリア内部及びその周辺にはFADが多いため,フラビン酵素であるMAOはミトコンドリアに存在する方が活性が高くなりやすかったのではないかと思われます.

また,MAOが分解するカテコールアミンは極めて極性が高い(=親水性)ため,マトリックスに侵入することは困難です( [イラスト薬理学 2006] p.78).以上より,ミトコンドリア外膜にMAOを埋め込んでおくというのが最適解であったのではないかと思われます.

内膜はATP合成とステロイドホルモン合成開始の場である

内膜はカルジオリピンというリン脂質が豊富に存在しておりイオン透過性が低くなっています.これは 外膜がイオンをよく通すことと対照的 です( [Ross組織学 2010] p.55).

内膜はATPを合成する現場です.特にATP合成の電子伝達系と呼ばれる過程に関与します.電子伝達系は詳しくは別の記事で述べますが,最終的には膜間腔からマトリックスへとH+がトンネルの様なATP合成酵素(基本粒子,酵素複合体とも)を通ることでATPが合成されます( [Ross組織学 2010] pp.54-55).

ATP合成酵素は内膜を貫くF0粒子,膜間腔に飛び出す頭のようなF1粒子からなります.F1粒子はH+-ATPaseとしての活性を持っており,H+の流入によって回転することでATPを産生します( [PDBj ATP合成酵素 2005]).

また,内膜はところどころでマトリックス方向へと突出しています.この構造をクリステ(クリスタとも)といいます.クリステは内膜表面積を増加させる役割を持っています( [Ross組織学 2010] p.55).

ATP合成酵素は内膜に埋め込まれた構造をしていますから,クリステはATP合成効率を上げていると言えます.実際,生体内で最もATP需要の高い細胞の1つである心筋細胞ではクリステ膜表面積が細胞膜表面積の20倍にまでなることがあるとされています( [CELL 2017] p.758).

クリステは通常の細胞では棚板状ですが, ステロイドホルモン分泌細胞では管状または小胞状 をしています( [Ross組織学 2010] p.55).「ステロイドホルモン」には副腎皮質ホルモン,性ホルモンが分類され,これらの生合成は共通して,コレステロールがミトコンドリア内膜のシトクロムP450側鎖切断酵素(P450scc)によって切断されてプレグネノロンが産生されることによって始まります( [獣生化 2016] pp.142-145).故に,内膜の表面積を更に上げるためにステロイドホルモン産生細胞では,クリステが管状になったりしているのではないかと考えられます.

なお,ミトコンドリアの分裂はクリステから始まります.クリステが伸びて対側と架橋が形成された後,細胞分裂と同じようにそこがくびれて分裂します( [標準組織学 総論 2002] pp.58-61).クリステから分裂が始まるのは,そりゃあもうかなり出来上がった仕切りがあるのだからそれを再利用したほうが無駄がないという感じでしょうか.

膜間腔にはアポトーシスの引き金となるシトクロムcがある

膜間腔にはいくつかの酵素が存在し,特にシトクロムcが重要です( [Ross組織学 2010] p.55).

シトクロムcはアポトーシスに関連します.アポトーシスの際には細胞の中身が破壊されますが,それは膜間腔に存在するシトクロムcが細胞質に放出されることでカスパーゼと呼ばれる酵素が活性化することによります( [Ross組織学 2010] p.89).

しかし,何故アポトーシスなんて機構が元々は外来生物であったミトコンドリアに委任されているのでしょうか? ミトコンドリアに任せる利点とは? これはまだ分かっていません( [CELL 2017] p.1032).

マトリックスではクエン酸回路が回る

マトリックスで起こる最大のイベントがクエン酸回路です.これは電子伝達系と同様に別記事で述べますが,ともかく,ATPを合成する呼吸系の1つです.故に,マトリックスにはクエン酸回路に関連する酵素が大量に含まれています( [Ross組織学 2010] p.55).

また,マトリックスにはCa2+などの2価及び3価陽イオンを貯蔵する基質顆粒が存在します.ミトコンドリアは濃度勾配に逆らってCa2+を取り込むこともでき,細胞内Ca2+濃度を調節する重要な細胞小器官の1つであるとわかります( [Ross組織学 2010] p.55).

Ca2+濃度調節を行う細胞小器官としては滑面小胞体も重要です.ミトコンドリアに過度のCa2+が小胞体から流れ込むとシトクロムcが細胞質へと放出されてアポトーシスが進行します( [理化学研究所 2016]).

ミトコンドリアの生物学的由来は好気性細菌である

ミトコンドリアは①一部の細菌と同じ環状2本鎖DNAをもち,②細菌と同じリボソーム(=70Sリボソーム)をもち,③半自律的増殖を行い,④3種類のRNAをもつ という理由から, 太古の時代に真核生物に取り込まれた好気性細菌を由来とするという説が濃厚 です.これをミトコンドリアの細胞内共生説といいます.

ミトコンドリアのマトリックスに存在する環状2本鎖DNAは細菌のものと極めてよく似ています( [見上彪 2011] p.20).更に, ヒストンをもたない ことも同様です( [康東天 2013]).これはそもそもヒストンのDNAを凝集させて束ねる役割は環状2本鎖DNAでは必要ないためと考えられます.

また,遺伝子として電子伝達系に関わる酵素やrRNA,tRNAをコードしており( [コア解組発 2012] p.278),ミトコンドリアは自身でリボソームを合成する事ができます.更に,そのリボソームは細菌のものと極めてよく似ています

多くの多細胞生物は40Sサブユニットと60Sサブユニットからなる80Sリボソームを持っています.一方,細菌や古細菌は30Sサブユニットと50Sサブユニットからなる70Sリボソームを持っています3

ミトコンドリアが持つリボソームは実のところ70Sリボソームですから,やはり細菌が共生した結果できた細胞小器官と疑われます( [PDBj 70Sリボソーム 2010]).また,このせいで 細菌のリボソームを作用点とした抗菌剤はミトコンドリアに対してもダメージを与えてしまうことがあります 

また,ミトコンドリアは半自律的増殖を行います.例えば,筋が肥大するに従いミトコンドリアの数は増えていきます( [生理学テキスト 2017]).しかし,ミトコンドリアが必要とする蛋白質の一部は核DNAに由来するため,細胞からミトコンドリアだけを取り出しても増殖することはありません ( [Ross組織学 2010] p.54).

故にミトコンドリアの増殖は核の制御下にあるという意味で”半”自律的増殖です.この半自律的増殖に好気性細菌が変化したことは,我々の直系の祖先である真核細胞が好気性細菌の生殺与奪権を握り支配下においたという可能性を示唆します.

すなわち,どこかの段階で原子真核細胞はミトコンドリアの一部の蛋白質合成権を奪い取ったのかもしれません(もちろん,逆にミトコンドリアの方から核にゲノム挿入を図った可能性もあります).これはかなり擬人化した見方ですが,何れにせよ我々を含めた真核生物とミトコンドリアは共依存の関係となっています.

なお,よく異質二重膜が細胞内共生説の根拠の一つとしてあげられますが,これは根拠として弱いと思われます.実のところ,同様に細胞内共生したと考えられている葉緑体は同質二重膜です( [三村徹郎 2017]).もちろん,論理学的には「葉緑体が異質二重膜をもたない」ことは「異質二重膜は細胞内共生説の論拠の1つである」ということを完全に否定するものではありません(「細胞内共生を行うと異質二重膜となる」ということが否定されるだけです).しかし, [コア解組発 2012], [獣組織 2017],そして [Ross組織学 2010]にも異質二重膜・同質二重膜は単語すら登場しないことも考えると,あまり重要ではないというのは間違いないでしょう.

そもそも,筆者は大学受験以降,異質二重膜・同質二重膜という単語を見たことがないので正直,生物学用語として本当に定着してるのかも怪しいと思っています(一部,受験生物でしか使われていないような単語もありますから).

4.終わりに

以上がミトコンドリアの概論です.これは細胞小器官の中でも病態に関わってきたり由来が特殊だったりするので問題になりやすいです.以下に演習と国試の関連問題を載せておきます.

演習ミトコンドリアの代表的な3つの機能を主軸として,各構造と機能の関連を述べ,また,生物学的な由来を論拠も添えつつ述べよ.

実践問題問題文をクリックすると答えが表示されます。

第64回獣医師国家試験 必須問題

問21:クエン酸回路が存在する細胞内小器官はどれか

第65回獣医師国家試験 学説試験A

問12:正誤問題 ステロイド産生細胞の特徴として「ミトコンドリアは丸い管状又は小胞状のクリスタをもつ」か

第67回獣医師国家試験 学説試験A

問24:丸々一問,ミトコンドリアに関する正誤問題.誤っているのは①絶えず分裂や融合を行う,②シトクロームcを介してアポトーシスを誘導する,③透過性の異なる2種類の膜で囲まれている,④ミトコンドリアゲノムにはヒストンが存在する,⑤ミトコンドリア内の電子伝達過程でROS(活性酸素種)が生成される のどれか.

この記事の情報

更新履歴

初版:2019/02/27

第2版:2019/03/17

執筆者:Fur

入力・校正:Sayoko

出典

参考文献

  1. ALBERTSJOHNSON,LEWIS,MORGAN,RAFF,ROBERTS,WALTER. 細胞の分子生物学. 第6版. 翻訳者: 中村桂子,松原謙一. ニュートンプレス, 2017.
  2. Goodsell,翻訳:工藤高裕S.David. PDBj ATP合成酵素. 2005年12月1日. https://pdbj.org/mom/72 [アクセス日: 2019年2月14日].
  3. PawlinaH. Ross,WojciechMichael. Ross組織学. 原書第5版. 翻訳者: 内山安男,相磯貞和. 南江堂, 2010.
  4. Richard D. HowlandA. Harvey, Mary J. Mycek, Pamela C. ChampeRichard. イラスト薬理学. 原書第3版. 翻訳者: 柳澤輝行丸山敬. 丸善, 2006.
  5. 横田博,木村和弘,志水泰武. 改訂 獣医生化学. 初版. 朝倉書店, 2016.
  6. 見上彪. 獣医微生物学. 第3版. 文永堂出版, 2011.
  7. 康東天. 疾患の制御・修飾因子としてのミトコンドリア. 公益社団法人 日本生化学会, 2013, 生化学 第85巻 第3号 pp.160-166.
  8. 三村徹郎. 日本植物生理学会 葉緑体の包膜の起源について. 2017年4月17日. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3632 [アクセス日: 2019年2月14日].
  9. 大地陸男. 生理学テキスト. 第8版. 文光堂, 2017.
  10. 田中千賀子,加藤隆一. NEW薬理学. 第6版. 南江堂, 2011.
  11. 藤田尚男,藤田恒夫. 標準組織学 総論. 第4版. 医学書院, 2002.
  12. 日本獣医解剖学会. 獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 獣医解剖・組織・発生学. 初版. 学窓社, 2012.
  13. —. 獣医組織学. 第7版. 学窓社, 2017.
  14. 翻訳:工藤高裕S. GoodsellDavid. PDBj 70Sリボソーム. 2010年1月1日. https://pdbj.org/mom/121 [アクセス日: 2019年2月14日].
  15. 理化学研究所. 細胞死を司るカルシウム動態の制御機構を解明-アービットが小胞体-ミトコンドリア間のCa2+の移動を制御-. 2016年12月20日. http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161220_1/ [アクセス日: 2019年2月14日].

画像

本稿で使用した画像は, 以下に掲げる画像を原著作物とする派生的著作物です.

File:Animal mitochondrion diagram en (edit).svg by LadyofHats [PD], via Wikimedia Commons.

派生的著作物の製作者であるFurは, あらゆる人に対して, 法により必要とされている条件を除きいかなる条件も課すことなく(=パブリック・ドメインに準ずる条件で), あらゆる目的のためにこの作品を使用する権利を与えます.

  1. [Ross 組織学 2010] p.55 にはアセチル CoA 合成酵素とあるが十中八九これは誤りだろう.もしも外膜にアセチル CoA 合成酵素があった場合,マ
    トリックスへはアセチル CoA の状態で侵入することとなるがそのような記載をしている書籍は全く見当たらない.

  2. この機序でパーキンソン病治療薬として働く薬として代表的なのはセレギリンである.
  3. このリボソームの組み合わせは非常に覚えづらいと思いますので個人的な覚え方を書いておきます.まず,真核生物のほうが大きいのは当然と
    考えて,30,40,50,60,70,80S を原核→真核→原核…と順番に書いていけば自動的に答えが出ます.

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