「核」とは何か 探せ、この世の全てをそこにおいてきた

「核」とは何か 探せ、この世の全てをそこにおいてきた
凡例
本稿は農水省の獣医師国家試験出題要項(H26)に従ったもので,以下の範囲に該当します。

I構造と機能1.生体の基本構造と機能A.細胞の構造と機能a.核

関連分野:組織学,生化学

一部の頻出する文献については以下の略称を用います.

[Ross組織学2010]:H. RossPawlina,WojciechMichael. Ross組織学. 原書第5版. 翻訳者: 内山安男,相磯貞和. 南江堂, 2010.

[獣生化2016]:横田博,木村和弘,志水泰武. 改訂獣医生化学. 初版. 朝倉書店, 2016.

[コア解組発2012]:日本獣医解剖学会. 獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠獣医解剖・組織・発生学. 初版. 学窓社, 2012.

[獣組織2017]:—. 獣医組織学. 第7版. 学窓社, 2017.[ハーパー2007]:K. MurrayRodwell,Daryl K. Granner,Victor W.Robert. イラストレイテッドハーパー・生化学原書27版. 初版. 翻訳者: 上代淑人. 丸善, 2007.

核の定義

核とは 核膜という二重膜で包まれ,DNAからなるクロマチン(染色質とも)と,核小体からなる構造体 である.核膜内のクロマチンと核小体を除いた部分を核質(核液,核細胞質とも)という([コア解組発2012]p.284).

なお,核を細胞小器官に含めるかは書籍によってまちまちです.[コア解組発2012]では分けてありますが,[獣組織2017]や[Ross組織学2010]では明確に細胞小器官の1つとして分類しています.

核膜の役割はDNA保護とスプライシングの保証

DNAというのは我々の体を構成している蛋白質の設計図1です.よって,これが剥き出しで置いてあるのは極めて危険です2.生物はそんなことはしません.

DNAを保護するための壁が核膜です.丁度,脳を守るために頭蓋骨があるようなものです.

DNAは蛋白質の設計図だと先程述べました.しかし,蛋白質の合成場所というのは核膜を脱した場所(細胞質)です.ですから,DNAという原本ではなく,そのコピーであるRNAを作り,それを細胞質へと輸送することでDNAが傷つかないようにしています.この出来たてのRNAをhnRNAといいます( [獣生化 2016] pp.171-172).

しかし,hnRNAには必要のない情報が沢山入っています.この必要のない情報をイントロンといい,これを取り除く過程がスプライシングです( [獣生化 2016] p.199) .

スプライシングされた結果できるRNAをmRNAといいます.mRNAは必要な情報(エキソン)だけからなります([獣生化 2016] p.199).

mRNAは作られた後,核膜孔を通って細胞質へと移行し([片平 2015]),リボソームによって翻訳されて蛋白質が産生されます([獣生化 2016] p.7).

以上の流れを図にすると,以下のようになります.


すなわち,核膜がなければ,リボソームはsnRNAというノイズだらけの設計図コピーから蛋白質を作ってしまう可能性があります. 核膜はリボソームの存在場所とスプライシングが行われる場所を分けることによって正しい蛋白質が作られることを保証している とも言えます.

核膜の諸構造

核膜は「核の定義」でも述べたように二重の膜です.外側の膜を外核膜,内側の膜を内核膜と言います.外核膜は小胞体と連続した構造です.内核膜は核ラミナと呼ばれる網目状構造によって裏打ちされています.外核膜と内核膜の間を核膜槽と言います([コア解組発 2012] p.284).また,立体的構造を考えれば当たり前ですが,核膜槽は小胞体内腔に連続します.

核ラミナの実態は,中間径フィラメントの一種であるラミンです([コア解組発 2012 ] p.284).これが核膜を内側から支えることによって,核がその形態を保てていると考えられています([Ross 組織学 2010 ] p.75)3

また,核膜にはところどころ孔が開いています.この孔がmRNAの輸送で登場した核膜孔です([コア解組発 2012]] p.284).核膜孔は外核膜と内核膜の融合部であるとも言えます(獣組織 2017] ] p.13).決して,ここで核膜が途切れるわけではなく,折り返すようにして核膜孔が作られています.

核膜孔はただの孔ではありません.核膜孔の辺縁には核膜孔複合体という構造が取り巻いています([獣組織 2017] ] p.13)4.直径9 nm以下の分子は核膜孔を自由に素通りします([コア解組発 2012 ] p.284).また,分子量≦40,000の分子も素通りします.しかし,このサイズを超える分子は核移行シグナル(核局在化シグナルとも)又は細胞質移行シグナル(核外輸送シグナルとも)という特定のアミノ酸配列(=シグナルペプチド)を持たなければ核膜孔を通れません([ハーパー 2007 ] pp.539-541).子供は素通りできても大人は通行証がいるんですねー.また,核膜孔を自由に素通りできるサイズの分子でもシグナルペプチドをもつものがあります.これは,シグナルペプチドがある方が能動輸送を受けられて迅速に輸送されるからであるとされています([Ross 組織学 2010 ] p.79).

核小体はリボソーム工場

核小体(仁とも)は核の中に存在する球状構造物です1( [コア解組発 2012] p.284). 核の核みたいな構造なんですね.

核小体を構成しているのはrDNA蛋白質です.rDNAは転写されてrRNA(リボソームRNA)となります( 組織 2017] p.14) . このrRNAと蛋白質の複合体こそがリボソームです( [コア解組発 2012] p.284).つまり, 核小体は蛋白合成工場の工場なんですねー .なお,細胞内には様々な形態のRNAが存在していますが,そのうち約70%がrRNAです( [獣組織 2017] p.14).圧倒的マジョリティなんですねー.

「核膜の役割」でも述べましたが,リボソームが核内にあるのは不都合です.よって,リボソームは速やかに核膜孔を経由して細胞質へと輸送されます([コア解組発2012] pp.284-285).

染色質などややこしい単語達

クロマチン(染色質)とはヒストンという蛋白質にDNAが巻き付いた構造です( [コア解組発 2012] p.285). このあたりの用語は,DNA,ヌクレオソーム,クロマチン,染色体,遺伝子…と本当にややこしいです.以下に表にしてまとめてみました.図も必ず参考にしてください(図みないと意味わからないと思います)
.

ポイント遺伝子関連のよく似た単語の区別
名称 詳細
DNA デオキシリボ核酸.すなわち,遺伝情報を記録している特定の物質そのもの([獣生化 2016] p.174).
ヌクレオソーム ヒストンに二回DNAが巻きついた,クロマチンの構造単位([獣生化 2016 ] p.176).
クロマチン ヌクレオソームの集合体のこと([コア解組発 2012]] p.285).
・転写の活発なユークロマチンと,不活発なヘテロクロマチンに分けられます.DNAの凝集具合が激しいのがヘテロクロマチンで,緩やかなのがユークロマチンです.この凝集具合の差が転写活性の差を生み出しています.また,塩基性色素によって強く染まるのがヘテロクロマチン,淡く染まるのがユークロマチンです.これも塩基性色素で染まるのがDNAであると分かっていれば,凝集度の差によって解釈できます([Ross 組織学2010 ] p.72).
・ヘテロクロマチンには細胞寿命を決めるテロメアや,分裂の際,紡錘糸が付着するセントロメアがあります([ハーパー 2007] ] p.349).
・哺乳類の雌のXX染色体は片方が不活化されます.これは,雄のXYと比べてX染色体の発現量が2倍になるのを避けるための機構です.不活化とは具体的にはXX染色体の片方がほぼ全領域に渡ってヘテロクロマチンになります.このX染色体を性染色質小体(バール小体とも)と言います([獣組織2017] ] p.14,45).
染色体 ・クロマチンの一形態で,分裂期に観察される凝縮したクロマチンです([獣生化 2016] p.175).
遺伝子 ・DNA配列のうち,アミノ酸配列を実際に指定している部分のような,まとまった情報をもつ単位([獣生化 2016 ] p.174).

皆さんも高校の生物の授業で染色体を見たことがあるのではないでしょうか. 多分ユスリカの唾液染色体なんか見て,染色体の本数を数えたりしませんでしたか? この「染色体」は染色質が凝集したものです.染色質のままでは,一本一本のDNAが細すぎて観察できません.しかし,染色体のレベルになれば数えられます.また,染色質は一本のDNAと多数のヒストンからなりますから,染色体の数とはすなわち,DNAの本数です.

核質

核質は核の中の構造物の間に介在している液体のようなものです.蛋白質やイオンなど様々なものが入っています( [コア解組発 2012] p.285) .

終わりに

以上が「核」の概論です.いかがでしたか?これらは「核」に関して基礎中の基礎のような内容ですから,しっかり理解しておきましょう(獣医学生としては当然理解しておかなくてはなりません). 以下の演習問題をこなせるようになれば,この文書の役目は果たされたなと思います.

演習:核について,定義,構造,各構造の機能に焦点をあてつつ説明せよ.

ところで,上図1の描写には,決定的におかしい描写があることに気づきましたか? 核膜孔複合体が描かれていないというのもかなり問題ですが,実はそれ以外に 100%誤りと言える描写があるんですよ.それがどこか分かったら筆者としては嬉しい限りですね.


脚注

1 DNAを転写してRNAを作り,このRNAがリボソームによって翻訳されることで蛋白質ができます.
2 例えばミトコンドリアでは傷害性をもつ活性酸素種が生理的条件でも産生されています.核膜がなくてDNAが細胞質に剥き出しであったなら,この活性酸素種による傷害は甚大なものであったことでしょう.[動物病理学総論2013]pp.15-16参照.
3ただし,近年は核の硬さ及び弾性はDNAによって生み出されているとの説もある.[ Maeshima 2017 ]参照.
4つまり,外核膜と内核膜の辺縁は剥き出しにはなっていないということです.

出典

参考文献


1. MaeshimaShimamoto,Sachiko Tamura,Hiroshi Masumoto and KazuhiroYuta. Nucleosome–nucleosome interactions via
histone tails and linker DNA regulate nuclear rigidity. the American Society of Cell Biology, 2017, Molecular Biology of
the Cell Vol. 28, No. 11 pp.1580-1589.
2. PawlinaH. Ross,WojciechMichael. Ross 組織学. 原書第 5 版. 翻訳者: 内山安男,相磯貞和. 南江堂, 2010.
3. RodwellK. Murray,Daryl K. Granner,Victor W.Robert. イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書 27 版. 初版.
翻訳者: 上代淑人. 丸善, 2007.
4. 横田博,木村和弘,志水泰武. 改訂 獣医生化学. 初版. 朝倉書店, 2016.
5. 日本獣医解剖学会. 獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 獣医解剖・組織・発生学. 初版. 学窓社, 2012.
6. —. 獣医組織学. 第 7 版. 学窓社, 2017.
7. 日本獣医病理学専門家協会. 動物病理学総論. 第 3 版. 文永堂出版, 2013.
8. 片平じゅん. mRNA 核外輸送複合体の形成機構. 公益社団法人 日本生化学会, 2015, 生化学 第 87 巻 第 1 号
pp.75-81.

画像

本稿で使用した画像は, 以下に掲げる画像を原著作物とする派生的著作物です.

図1 File:Diagram_human_cell_nucleus.svg by Mariana Ruiz LadyofHats [Public domain], via Wikimedia Commons.

図2 File:Introductory_figure_for_transcript_and_splicing.png by Ganeshmanohar [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons.

図3 “DNA Macrostructure” by OpenStax [CC BY-SA 4.0], via CNX.

派生的著作物の製作者であるFurは, 図1に関してあらゆる人に対して, 法により必要とされている条件を除きいかなる条件も課すことなく(=パブリック・ドメインに準ずる条件で), あらゆる目的のためにこの作品を使用する権利を与えます. 図2および図3に関して, CC BY-SA 4.0下での利用を認めます.

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